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仕事が全く無いことが最も辛かった。

私がこの会社に入社した時、最も厳しかったことは、まったく仕事がない状態だったことだ。確かに、仕事が過多であることも過労となり辛いが、その反対に仕事が一切ないのもまた辛い。私が担当していた会社は3社あったが、実際に商談のできるのはそのうちの1社だけだった。固定の得意先へのルートセールスの仕事は、実質的には殆ど存在しなかった。1社を週1回訪問するとしても、残りの週4日は何をすればいいのか戸惑っていた。

何か仕事をしている風を装って、資料の作成のフリをして過ごしていた時期もあった。たまに上司の代わりとして店舗へ応援に行くこともあり、その際は少し気分が晴れた。しかし、大半の時間は暇で、その無為な時間が重くのしかかってきた。

オフィスに長時間いると目立ち、部長と目が合うと、そのたびに成績の不振を理由に叱責された。そのため、できるだけオフィスに居ないよう心がけていた。また、実際には訪問していないにも関わらず、残りの2社への訪問を装って、他の場所で時間を潰していた。

しかし、このような行動も長くは続かないと感じ、行動を改めた。その時期に新小岩駅近くにあった物流センターで、出荷の手伝いをすることで時間を過ごしていた。しかしこの事実も部長に知られることとなり、ある日突然彼に呼び出された。

営業マンとしてお客さんのところに訪問すべきなのに、出荷の手伝いをしているのはおかしいと、部長に厳しく叱られた。「お前は仕事を真剣に取り組んでいない。それが営業数字にも表れている。給料泥棒だ」と非難された。

その言葉には、確かに反論の余地はなかった。

新小岩の物流センターまでは、新小岩から20分ほど歩く距離だった。その帰り道、私は常に悩む思いでいっぱいだった。『こんな仕事を辞めたい』『なぜ新人の私がこんなに非難されるのか』『ルートセールスの仕事は本当に最悪だ。新規開拓の仕事の方が良かったかもしれない』『どうして偽の仕事活動をしなければならないのだろう』と、帰路を急ぐ度にそう感じていた。

その時の経験から、ルートセールスと新規開拓の営業には大きな違いがあると私は感じた。ルートセールスは、結局、会社が既存の顧客を提供してくれるだけのもの。その顧客に対してどれだけ売り上げを上げても、それが本当に私の実力なのだろうか。それは会社が用意した顧客で、同じ結果は他の営業マンでも達成できるのではないか。それにも関わらず、売上を伸ばした人が評価されるのは公平ではない。固定得意先の営業はフェアではないと感じた。

一方、新規開拓の場合は、自ら新たな顧客を探し出し、売り上げを伸ばす。それならば、その成果は100%その人の実力と言える。売上を伸ばした人こそが評価されるべきだと思った。